2026年10月14日

「スタッフに麻酔を任せることは、経営者にとっても医療者にとっても大きなリスクを伴います。それでも私たちがその扉を開くのは、歯科医療の本当の尊厳と素晴らしさを、彼女たちと共に証明したいからです。」
先日、私は当院のスタッフ(歯科衛生士)たちと共に、歯科麻酔の専門セミナーを受講してきました。
歯科衛生士による浸潤麻酔(局所麻酔)は、法的に認められた医療行為です。
しかし、全国の歯科医院を見渡したとき、実際に衛生士に麻酔を打たせている医院は決して多くありません。
理由は明快です。
麻酔という行為には、アレルギーや偶発症、患者様への痛みといったリスクが常に隣り合わせであり、歯科医師自らが打ってしまった方が、医院経営の安全策としてはるかに「楽」だからです。
ではなぜ、レーヴェ(Löwe)はあえてそのリスクを引き受け、彼女たちに麻酔という領域を開放するのか。
そこには、私たちがこの場所で何を育て、患者様に何を届けようとしているのかという、譲れないスピリットがあります。
1、歯科衛生士に「針」を持たせるという決断
歯科衛生士という職業を、「ドクターのアシスタント」や「機械的なお掃除係」にしてしまってはならない。私は常々そう考えています。
お口の健康を守り、崩壊のドミノを最前線で食い止める彼女たちは、本来、極めて高度な専門性を持った医療人です。
自分自身の手で患者様の痛みを取り除き、恐怖心を取り去り、安心の中で精密な治療やメインテナンスを完遂する。
その責任の重さを肌で知ることこそが、衛生士としてのキャリアを飛躍的に高め、「歯科医療とはこれほど誇り高く、素晴らしい仕事なのだ」と実感する原点になります。
リスクを恐れて成長の機会を奪うことは、教育の放棄です。
彼女たちが医療人としての尊厳を持ち、自らの仕事に誇りを抱くこと。
その熱量こそが、最終的に患者様への最高の医療体験として還元されると信じているからこそ、私たちはこの挑戦を選びました。
2、講習会の受講証は、免罪符ではない
しかし、ここで絶対に履き違えてはならない真実があります。
「休日に麻酔のセミナーに出て、受講証をもらってきたから、明日から患者様に打っていい」
当院では、そんな甘い妥協は1ミリも存在しません。
セミナーで得られる知識など、ほんの入り口に過ぎないからです。
患者様の身体に針を進めるという行為は、その方の命と尊厳をお預かりする行為そのものです。
解剖学的な神経の走行、痛みを最小限に抑える注入圧、万が一の体調変化を見抜く全身管理の眼。そして何より、「見えない痛みに怯える患者様への、絶対的なリスペクト。
それらを持たない者が、安易に針を握ることは許されません。
受講を終えた後、彼女たち自身が「患者様の前に立てる自分」になるまでの、緻密な自己トレーニングのスケジュールを組み立てます。
基礎理論の反復、模型を用いた刺入角度の徹底的な訓練、薬剤の薬理作用の再学習。
講習会というイベントで終わらせず、自らを律して技術を高め続けるプロセスそのものが、プロフェッショナルとしての第一歩です。
3、私の身体を通して行われる、最後の関門
自らに課した厳しいトレーニングを終えた後、彼女たちの前に立ちはだかる「最後の関門」があります。
それは、院長である私自身の身体(口腔内)に対する実技テストです。
患者様の身体を、スタッフの練習台にすることは絶対にあり得ません。
彼女たちの針の角度が適切か、注入のスピードが粘膜を刺激していないか、そしてその所作のひとつひとつに患者様を思いやる敬意が宿っているか。
私は、自身の歯肉でそのすべてを体感し、審査します。 少しでも迷いがあったり、痛みの配慮に雑さがあったりすれば、容赦なく不合格にします。
「私の口で完璧にできなければ、大切な患者様の前に立たせる資格はない。」
その関門を突破し、技術の精度、解剖学の理解、そして患者様への真摯な覚悟が完全に保証された者だけが、初めて臨床の現場で針を持つことを許されるのです。
4、誇りを育てる仕組みこそが、患者を守る
「任せる」ということは、決して「丸投げする」ことではありません。
徹底した仕組みと厳格な基準(ゴールドスタンダード)を敷き、その高いハードルを越えた者だけを送り出す。
それが、医療機関としての最大の安全管理であり、患者様に対する誠意です。
自分の身体に針が刺さる瞬間、患者様は言葉にできない緊張と不安を抱えています。
その恐怖を誰よりも理解し、震える手を克服して技術を磨き抜いてきた衛生士だからこそ、かける言葉のひとつ、触れる指先の温度ひとつに、本物の優しさが宿ります。
レーヴェにいるのは、指示を待つ従事者ではありません。
患者様の人生を背負う覚悟を持ち、自らの意志で研鑽を重ねるプロフェッショナルたちです。
私たちは、安易な近道を選びません。
高い基準を共に乗り越えた者だけが、あなたの痛みに寄り添い、その未来を守り抜く資格を持つのです。
医療者と患者という枠を超え、人と人として。あなたの人生という長い物語に、私たちはこれからも誠実に寄り添い続けます。 — Löwe